それでは、そもそも、自治体政策の現場でそうした高度な政策分析能力が必要なのであろうか。必要だとすれば、どのようなケースであるのだろうか。
近年の政策評価(行政評価)は自治体により多様な手法が導入されているが、いずれもPlan-Do-Check-Actionのマネジメントサイクルにより、行政活動とその成果を可能な限り定量的に把握しようとするものである。こうした背景には、住民の価値観の多様化に伴い住民の総意を判断することが困難となっていることに加え、かつては経験則やあうんの呼吸で行政運営を行うことができたのに対し、今やそのような意思決定だけでは到底対応できない状況にあることが考えられる。
住民に対する説明責任の向上や意思決定プロセスにおける透明性の確保の観点から、これまでの行政運営や意思決定のあり方に大きな変革が迫られている。そのためには、できるだけ客観性と合理性を有する説得技術としての政策評価・分析能力が必要不可欠だ。
こうした政策の分析評価の方法には、法学や政治学・行政学などの知識に加えて、システム分析やオペレーションズ・リサーチなどの工学的手法、費用便益分析・産業連関分析などの経済学的手法、あるいは政策対象となる住民ニーズを確認する統計分析や社会調査手法といった社会学や心理学等で開発されてきた様々な方法がある。しかし、このような政策分析スキルはあまりこれまで職員研修では行われていない。自治体にとってまったく手薄な状況にあるといってもよい。
一方、これら政策分析手法に関しては、いずれも大学の各学部で従来から一定の研究実績や人的資源があるものであり、特に学際的な政策系大学院では一通り学ぶことが可能となっている。
したがって、政策評価時代に対応した高度な政策分析スキルを効率的にマスターするためには政策系大学院が最も適しているといえよう。
(出所)佐藤徹「自治体の政策形成と政策系大学院」『マッセOSAKA研究紀要第6号』(財団法人大阪府市町村振興協会 おおさか市町村職員研修研究センター),平成15年3月,pp72-77から一部抜粋、加筆修正。